上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- -- l スポンサー広告 l top
「姉ちゃんこんなんで飛ぶと思ってんの」
怒られることを覚悟した少女だったが、予想に反して、男は彼女の頭をぽんと軽く叩いただけだった


すっと差し出されたボール。
少女は顔を上げた。こわもてがやたら近い。わざわざ身を屈めているのだと気づくには、もう少し時間がかかった。


「あ、ありがとうございます」
礼を述べて手を差し出した。
「すみません、当てるつもりはなかったんです」
それと、先刻のお詫びも慌てて。


日がビル街に沈む刻限、この公園にくるのが最近の少女の日課だった。
公園といっても目立った遊具はない。的の描かれたコンクリートの壁があるだけ。
けれど、少女にはそれで十分だった。


「ここ数日、毎日来てるじゃないか」
謝罪には直接応じず、男は険のある眼差しをすいと壁に向けた。
「一人キャッチボールか?」


「ちょっと貸してみろ」
反応に困ったのか、黙ってしまった少女の手から再びボールをつまみあげ、男は何気なくそれを壁へと放った。

パシッ、音がした位置はずいぶんと高かった。
遠く、緩やかに向こう側に吸い込まれる軌跡を想像して、少女はため息をついた。


「もっと体全体を使って投げるんだな。姉ちゃんのはあれだ、上半身だけで投げてる。そんなんじゃ飛ばねぇ」


それでもなお続く沈黙に、耐えきれないというかのようにわしわしと男は頭をかいた。
「信じろい。これでも昔は、エースピッチャーだったんだぜ」


真っ直ぐに育った若木のような少女と、お世辞にも堅気には見えない男。
端から見たら、やれ恐喝かかどわかしかと思われるだろう。けれどねじれた唇から出てきたのは、エースピッチャーという華やかな、どこかしみじみとした響きで。


その落差がおかしくて、少女は笑いだしてしまった。まるで出来すぎたお話のよう。
この際、それが嘘か本当かは別問題だった。


「毎日見てくれてたなら、うまく投げれるよう、これからコーチしてくれませんか」
そんな展開に甘えて、少女は軽口をたたいてみた。
男はそれはもう情けないほど崩れた顔をしたが、すぐに背中を向けると二歩三歩と足を動かした。


「あの…」
「バカ言うな」
身をすくませるようなドスのきいた声が返ってきた。


「これからとか、軽く未来を口にすんな。ないかもしれねぇ明日明後日を考える暇があるなら、今をせいぜい生きるんだな」


はき捨てた男は、勢いあまったのかついでのように一言。
でないと、俺みたいになっちまうんだよ」


ぽつんと呟いたそれが、複雑な色をのせていたことに、果たして少女は気づいたかどうか。


立ちすくむ少女の視界の先、ビルの影に白いスーツが吸い込まれていった。
きれいな放物線を描いた白球とはかけ離れた、ひどくいびつな姿だった。
スポンサーサイト
2010.07.17 Sat l 未分類 l コメント (5) トラックバック (2) l top
「姉ちゃん・・・・・・こんなんで飛ぶと思ってんの?」
修正を繰り返し汚れた紙に引かれた設計図を眺めて少年が呟いた。
「飛ぶわ。私なら飛ばせるの。いい?私は貴方がママのおっぱい吸ってる頃にはもう、操縦桿を握っていたわ。貴方とは経験も知識も違うのよ。いい子だから黙って言うとおりになさい」


それだけ捲くし立ててから、少年の機嫌を損ねないように帽子を被ったカーリーヘアを撫でる。
「信用しているのよ?貴方の腕を。お願いね可愛い設計士さん」
添えられた微笑みに眩しさを覚えて、視線を逸らした。
「っ……か、金は貰ってるからやるよ!けど、飛ばない船になっても返さないからな!?」


「もちろん、返さなくていいわ。だって、貴方なら私の言うことを聞きながら飛ばせるように引いてくれるでしょう?頼んだわよ?それじゃあ、私は休むわ」
髪をかき上げながらおやすみなさい、と立ち去る背中を見つめながらため息をついた。
「言ってることが無茶苦茶だよ……」
と再度、設計図を見返した。


「…… ギリギリ、だよ。ホント……あーもー」
頭を抱えて天井を仰ぐ。彼女は有名人だ。『女だから』『腕がいいから』『美人だから』『空賊だから』総てだ。ただでさえ飛空挺に女が乗るのが稀なのだ。空で生まれ、空で育った彼でさえ、女船長など彼女の存在を知るまで聞いたこともなかった。


当然、彼女を好まない人間も多かった。
賊同士の諍いで原型を留めぬほどボロボロになった彼女の船の修理が、立ち上げたばかりの小さな造船所に舞い込んだのはそれがおおきな理由なのだろう。
名前を売るには充分すぎる仕事だった。ふと、4日前に彼女が依頼に来た日を思い出す。


長い髪は焼け焦げて、衣服は乱れたままで、死にかけの船員を担いでなお、彼女は――彼女の瞳は揺ぎ無く、翼を要求した。
その姿に、心を動かされない飛空挺技師がいただろうか。女であることを蔑むことのできる人間がいただろうか。


その姿と、先ほどの微笑みを思い返して胸が苦しくなった。
「………くそ、見てろよ」
帽子を被りなおしもう一度、設計図へと向かった。


翌朝、設計図を手に彼女の部屋の扉を叩いた彼を力強い抱擁と、キスの嵐が待ち受けていた。
戸惑い、照れる彼をよそに、子供のように目を輝かせながら喜んでいた。その日の空は、果てしなく青かった。


その日から、飛空挺の製造は急ピッチで進められた。
少年は一日々々、完成に近づく船を見ながら自身の仕事への確かな手ごたえを覚えた。
それと同時にもう一つ、別の感情があることに気付きながら、蓋をした。


彼女や、船員達の手伝いもあって一年足らずで飛空挺は完成した。
『こんな構造で飛ぶはずがない』といわれた船を彼女はテスト飛行でいとも容易く飛んでみせた。
引渡しの前夜、船員達が酒をあおる中、少年は彼女に呼ばれ二人で船を見上げていた。
「これで、また飛べるわ」
感慨深げに目を細めた。


その横顔に感情が溢れそうになった。少年は心の中で必死にそれを否定して、話す。
「満足だろ?船長さん。これでうちも一流造船所の仲間入りかなぁ」
帽子を深く被り、乾いたように笑う彼を彼女が抱き寄せる。
「……貴方には、感謝しているわ」
少年の頬に唇を落とし、ありがとう、と添えた。


翌日の出立を、少年は見送らなかった。『連れて行って』と言ってしまいそうだったからだ。
彼女を困らせることはしたくなかった。足の動かない自分では、邪魔なだけだと自身でわかっていた。
車椅子を引きずって、窓から空を見上げた。彼女の、瞳のように、果てしなく青かった。 
2010.07.15 Thu l 未分類 l コメント (0) トラックバック (2) l top
「姉ちゃんこんなんで飛ぶと思ってんの?」
俺は姉の銃口を見ていた、灰を落としてタバコを床に捨てた、禁煙糞喰らえだ
「姉ちゃん」
姉は引き金に指をかけ、俺は最後のタバコを咥えて火をつけた
「こんなんで飛べると、思ってたのか?」
銃声が聞こえて、姉は床に倒れた、タバコの煙がゆっくり上っていった
2010.07.15 Thu l 未分類 l コメント (0) トラックバック (0) l top
「姉ちゃんこんなんで飛ぶと思ってんの?」
背後から小馬鹿にしたような声が聞こえた。午前2時。高層マンションの屋上。
周りの夜景はまるで宇宙。振り返るとおとなしそうな青年が立っていた。彼の手には包丁が握られていた。


この屋上には私と彼の二人しかいない。イコール、助けなど絶対に来ない。
この状況から脱出するためには「彼をねじ伏せる」「屋上から飛び降りる」の2種類しかなかった。
だが投身自殺をするつもりは毛頭から無い。
私はあらかじめこのマンションにクライミング用のワイヤーを隠していた…はずだった。


「姉ちゃんが探してるのってコレかな?」
青年が切り刻まれたワイヤーを放り投げた。
「…用意周到だね。こんなの隠してたって事は、よっぽど僕のことが憎いんだ?」
彼の目は狂気を帯びていた。
「言わなくたって分かってるよ。姉ちゃんは僕の事殺しに来たんでしょ?」


私はゆっくりと口を開いた。
「…やっぱりあなたが殺したのね?」
女の声が、私の台詞を続けた。
「私の親も、ペットも、友達も、あなたのお兄さんも…どうして?どうして私じゃなくて私の周りの人たちだったの?!」
つい感情がこもってしまった。全員、この青年が手にかけた犠牲者だった。


「……きだったから。」
青年の声がか細くなった。
「…は?」
私は聞き返した。
「姉ちゃんが好きだったからだよ!!!!」
青年は声を張り上げた。


「初めて会ったときから僕は姉ちゃんが大好きだった!何度も『好き』って言っただろ!?あれは本気だったんだ!なのに姉ちゃんは笑ってまともに取り合ってくれなかった!!…兄貴も、姉ちゃんの知り合いもジャマばかりしてさ。僕は姉ちゃんと2人だけでいたいのに…。殺したくもなるじゃん。違う?」


あまりに身勝手な主張に、私は茫然とした。その間に彼は私のすぐそばまで来ていた。
いつの間にか私は屋上の端に追い詰められていた。
「…姉ちゃん、そういえば今日は違う男の匂いがするね。」
静かな声が聞こえた瞬間、脇腹に包丁がねじ込まれ、激痛が走った。 ……今しかない。


私は彼の腕をつかみ、彼の身体を一気に床にたたきつけた。
そのまま彼の首元を抑え、全体重を掛けていく。脇腹の包丁が更に身体を抉る。
彼に殺された人たちもこんな痛みを感じたのだろうか…。
私は彼の耳元で最後の言葉をかけた。
「…彼女は『さよなら』と言ってましたよ。」


青年の死を確認した後、私はボイスチェンジャーを調整し直し、依頼主に電話をかけた。
「仕事、終わりましたよ。」
電話の向こうで『姉ちゃん』が息をのんだ。私は事務的に会話を続けた。
「報酬は後日指定した口座に振り込んで下さい。それでは。」
…さて、今回はどうやって飛ぼうか。
2010.07.15 Thu l 未分類 l コメント (0) トラックバック (0) l top
「姉ちゃんこんなんで飛ぶと思ってんの?」
自信満々の姉にアタシは『心から疑っています』の意をたたきつけた。
「飛べるに決まってるじゃない!私は何度も見てるんだからね!」
ダメだ。コイツは考えを曲げそうにない…。


「いや、『見てる』って言っても姉ちゃんだけじゃん。」
「だったら何よ。」
「信用デキマッセーン。」
「むぅ…。」


姉ちゃんは口をつぐんだが、すぐに得意げな表情に戻った。
「でも他人が飛ぶのを見た事自体は事実ッ!」
「はぁ…。」
「あんたの好きそうなイケメンだったよ~?」
「いや知らんし。」
姉ちゃん、飛んでた人の顔までよく見えたな。


「まぁそこまで言うならもう止めないわ。」
どうせ言っても聞かんだろう。
「万が一成功したら教えてよね。あ、それと…」
「ん?何?」


「それ、箒じゃなくてクマデだから。」
2010.07.15 Thu l 未分類 l コメント (0) トラックバック (0) l top
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。