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「姉ちゃんこんなんで飛ぶと思ってるの?」
「分からない」
「分からないって」 
姉はもう三日も目の前に横たわる巨大な機械をいじり続けている。
僕たちがこの島にやってくるときに乗っていた、そして今は見る影もなく、ほとんどばらばらになった飛行機の残骸だ。


もっとも、僕たち十人がこの島にやってきたのは一年も前の話だ。
なにせ突然の事故だったからよく覚えていない。
身体が突然揺さぶられたかと思うと、次の瞬間には前の席に座っていた親父が吹き飛んで見えなくなっていた。


なんとか生き残れた僕たちは救助を待った。待って、待って、待ち続けた。 
だが、空には一片の飛行機雲も、海には一音の汽笛さえも聞こえてこなかった。


無理もない。ここはとんでもなく航路から外れたちっぽけな無人島だ。 5か月が経つ頃、僕らは救助を待つことをあきらめた。


僕たちは島で生活する道を選んだ。幸いにも、島には小さいけれど水をたたえた湖があった。
遠浅の海岸では魚や貝がよく獲れた。するべきことはいくらでもあった。


僕らは初めのうちこそ戸惑っていたが、いったん島での生活に慣れてみると意外なほどに暮らしやすいことに気がついた。
チョコやクッキーみたいなお菓子は手に入らないけれど、食べ物には不自由しなかった。魚に飽きれば森に入り、動物を捕まえさえすればよかった。
獰猛な肉食獣も見かけたことがない。


僕らはただ、大昔どこかの洞窟に住んでいた原始人みたいに獲物を追いかけて、火を焚いて、毎晩のように宴を開いていればよかった。


その日も僕たちは飲めや歌え屋の宴会を開いていた。
もちろん酒などないから飲んでいたのは島でとれたフルーツのジュース。
だけれども皆が皆異常なほどはしゃいでいた。用意した肉も、魚も、果物も食べつくした。


食べるものが無くなれば誰かが歌って踊りだす。
聞いたこともない歌だったが手足を動かしてひたすら踊った。笑顔が絶えなかった。


途中で足がもつれて転んだ。
「亮平、大丈夫?」
姉ちゃんが駆け寄ってきて、僕を助け起こした。
「うんちょっと疲れただけ」僕ははにかんで見せた。 
「弟が疲れているみたいなんで、早めに休みますね」
姉はそう言って僕の肩を抱えてテントへ歩き出した。


肩を組みながら姉が話しかけてきた。 
「亮平」
「ん?」
「この島どう思う?」
僕はちょっとだけ考えて、こう言った。
「天国みたいな場所だよ。食べ物はいっぱいあるし、毎日皆で浜辺に寝そべって、延々と話ができる。桃源郷だよ」 
それを聞いた姉の目がちょっとだけ光ったことに、僕は気付かなかった。


その翌日からだ。姉が飛行機の残骸の修理を始めたのは。 
「姉ちゃん、ホントに飛ぶと思ってんの?」 
「分からない」
姉は手を休めることなく動かしながらそう言った。
「分からないって」 
僕はちょっと逡巡して、こう言った。
「そんなん意味ないじゃん。やめようよ。無駄なこと。」 
姉が顔をあげた。


「あたしだって分かってるよ。一年間も野ざらしにされてたんだよ、そんな飛行機飛ぶわけないって」
「じゃあなんで」
「いやなんだよ、あきらめるのが」 


「あの宴会の時の、皆の顔を見た?思いっきり馬鹿みたいにはしゃいじゃって。
 これでもか、これでもか、ってはしゃいじゃって。皆も、ホントは島を出たいんだよ。
 出て帰りたいんだよ。」 
僕は言葉に詰まった。あの日の、あの時の皆の顔を思い浮かべる。


「あたしは大嫌いなんだよ、そういうふうに諦めるのが! 
 何が何でも、亮平と、皆と一緒に泳いでだって帰ってやるわよ」 
姉はそう言って飛行機の部品を集め始めた。


その日から僕は姉を手伝い始めた。別にこの飛行機が飛ぶと信じて手伝ったわけじゃない。
ただ何となく、何かをしなければいけない気もちが、僕の中にあった。 
野ざらしになっていた部品を集めては元の場所に設置する。ただそれだけだけど、確かな仕事だった。


僕らは初めのうちこそ戸惑っていたが、いったん慣れてみると作業はとんとん拍子で進んだ。
時々事故で死んだ人達の骨や、遺品が出てくる。
そういうものに驚いたり、気味悪がっていたけれど、僕らはそれを深い穴を掘って埋めた。
埋めた遺品の上にはしっかりと土をかぶせた。


「ここに立派な墓石でもおいてあげるといいんだけど」
「二人じゃ、無理だよね」
姉が苦笑いして言った。 
「石ならあっちにでっけえ大理石があったぞ」
驚いて振り向く。十人のうちの一人が、こっちを向いて笑っていた。


仲間は少しずつ増えていった。
僕と姉さんの二人が長いこと進めていたおかげで飛行機の作業はほとんど終わっていたが、二人だけでは墓石は運べない。
全員で力を合わせて墓石を運び、犠牲者を弔った晩、僕は確かに皆の気持ちが何か変わったことを感じた。
生きて、確実にこの無人島を出ると言う動き。


実際に島を出ることになるのはたぶんまだずっと先のことだろう。
今は力を合わせて筏を作っている段階だ。 
-だけれども、きっと、大丈夫。
諦めさえしなければ、壊れた飛行機だっていつか空を飛ぶのだ。 
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2010.07.14 Wed l 未分類 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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