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「姉ちゃんこんなんで飛ぶと思ってんの?」
部屋の入口を振り返ると、妹がアイスをくわえてそれを手にしていた。


「汚い手で触んないでよ」
思わず不機嫌な声が出たが、妹は気にした様子もなく
「だいじょうぶだよ、キレイキレイ」
と、へらへら笑った。


それは、割り箸と輪ゴムとで組み上げられた飛行機だった。
私の机にはその残骸や失敗作達がそのままになっている。


夏も近い六月、自由研究がある訳でも無し、どうしてこんな物を作ったかと言えば『飛び』たいからだ。


「姉ちゃんもいじっぱりだよねぇ、作り方の本とか見れば良いじゃん?」
妹が笑う。
器用な彼女には解らないだろう、不器用な私なりのプライドというものが。
「それじゃ意味無いの」


「なんだっけ、約束したんだっけ?」
毎年、私はこの季節になるとこうして飛行機を作る。
「うん、約束したから」
高校に上がったばかりの頃、『飛んで』行った友達との約束の為に。


三年前のことだ。その友達は高校に入ってからすぐに仲良くなった子で、それからいつも一緒だった。
もうしばらく長く過ごしていれば、レズ疑惑が立ちそうな程、一緒だった。


彼女は酷く情緒が不安定で、私が知らない子と一緒にいるだけで
「私のこと嫌いになったの?」
と何度も聞いて来るような子だった。私も地元の友達がいない高校で、寂しかったのだと思う。
私たちはいわゆる共依存の関係になりつつあった。


彼女は空が好きで、手先がとても器用だった。
私にはどうやって折ったのか解らないような、複雑な折り方で紙飛行機を作っては飛ばしていた。
けれど、所詮紙で出来たものだから、風の強い日なんかは行方が解らなくなって、それでまた落ち込んでいた。


まぁ、ここまで言えば、誰でも解ると思う。ありがちな携帯小説のようにその子は死んだ。


元々情緒不安定だった彼女は、高校に上がるまでに何度か自殺未遂をしていたそうだ。
ふわふわしたその性格から、中々友達が出来ず、仲良くなった相手は私のように共依存の関係になるか、気味悪がって離れていったそうだ。


彼女の両親は言っていた。
「あの子はまるで地に足がついていないようだったから」
だから『飛んで』行ってしまったのだろう、と。


両親宛の遺書とは別に、私に宛てた手紙があった。
それを受け取った私は、絶句した。悲しかったり、気味が悪かったりした訳ではない。
その封筒の中に入っていた手紙に、呆れたのだ。


封筒の中には真っ青な画用紙で折られた紙飛行機が入っていた。
それを開いた真ん中にただ一言、彼女の言葉が遺されていた。


「あなたと居ても飛べなかった」


先に私は彼女との関係を共依存の『ようだ』と例えたが、彼女は私に依存していた訳ではないのだ。
『飛び』たかった彼女は、私と一緒にいることで地を蹴ることが出来そうだったから、一緒に居たのだ。そして、それは叶わなかった。


依存していたのは私だけだったのだ。
ふわふわと地に足がつかない彼女を、地上につなぎ止めていられたような、そういう気になっていただけ。
彼女が何を思って死んだのかは解らないけれど、望む結果には成らなかったのだ。そう思った時あまりに馬鹿らしくて、私はそのまま紙飛行機を捨てようとした。


しかしどうせなら、彼女の遺書を空に飛ばしてやろう、と思ったのだ。
一度開いてぐしゃぐしゃにしてしまった画用紙を、もう一度折り畳んで、空に投げた。
ぐらり、とバランスを崩したのだと解る前にそれは私の顔面に舞い戻った。


「で、それってどこが約束なん?」
溶けたアイスを食べ切った妹に言われ、恥ずかしいながらも答える。
「あの子はまだ飛べてないの。だから、飛ばしてさよならしたくて」
「約束してないじゃん」
「…気持ち的な問題よ」
だから話したくなかったのだ。妹の手から飛行機を取り上げてゴムの強度を確認する。


手先の器用な彼女がやっていたような紙飛行機を折ることは出来ない。
もっと高く、遠く、そう思っているうちによく解らない、自己流の飛行機を作るようになっていた。
三年目、今日が彼女の命日だった。
「…飛ぶの?それ」
妹が言う。
「…飛ばないって決まった訳じゃないもん」
飛行機を、窓から飛ばす。


割り箸の飛行機は、また、飛ぶこともせずにただ落ちていった。
彼女が作った紙飛行機にすら及ばないそれは、未だ私自身が彼女が『飛んで』行ってしまったことを認められていないという、何よりの証明にも思えた。
地に足が着いているのではなく、私は、地に縛り付けられているだけなのだ。 
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2010.07.14 Wed l 未分類 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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