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「姉ちゃんこんなんで飛ぶと思ってんの?」
屋上の手すりに腕をあずけ、なんちゃって青春の1ページを満喫していた私に声をかけたのはクラスメイトのやまっち(10代男性)だ。
勘違いしないでいただきたいが姉ちゃんというのは私のアダナでしかなく、けしてこの男と血縁関係にあるわけではない。


ついでにいうとその珍妙な愛称もどきで呼ばれるようになったきっかけは腹立たしいことこの上ないので詳細を語りたくない。
だがしかしこの男と仲が悪いのかといえば否と言える程度の間柄というかぶっちゃけた話クラスメイトの中じゃ一番気が合う部類なんじゃねえの? と思える相手である。


だからこそ私は背中に全体重をかけてきてなおかつ肩ごしに手元を覗き込んでくるこの馬鹿に肘鉄をくらわせることなくそのまま青春ごっこを続けることができる。私の手のうちにはかわいそうなくらいシワシワの紙飛行機があるわけで、やまっちがコレを見た上で発言したのだということは容易に読み取れた。


「これのことかい山下青年」
「それ以外になにがあるのよ姉ちゃん」
「例えば私とか」
「どうしたの私は鳥になりたいとか思っちゃうお年頃なの」
「もしそうだったらどうするの」
「全身の筋肉をすべて使って笑い転げる」
なるほどそれは是非見てみたいが生憎と哺乳類から逸脱した存在になりたい訳じゃない。


くだらない話をくりひろげるホモサピエンス二体をよそに哀れな紙飛行機はただ沈黙を続けていた。
なんどもなんども両の手でぐしゃぐしゃに甚振るように扱わないとこんなシワはつかないだろう。
一体どんな感情の嵐によってこの紙片は被害をこうむったのか私には分からない。


ただ、中身が中身なだけにきっとフクザツでセンサイな事情があったにちがいない。
紙片の正体を知っている私は勝手にそんな想像をして遊びながら、表では至って平静な顔を形作るようつとめていた。
こんな男に中身を知られては元の持ち主も浮かばれない。(――これはただの言い訳でしかなかったが。)


そういう理由で私は未だに離れようとしないこのあほんだらには情報を開示しないことに決めていた。
「やっぱり飛ばないかなあ」、などと言ってみせながら指でつまんだまま紙飛行機をひらひら揺らす。
「どしたのソレ」
「拾った、ヤツを折ってみたんだけどねえ」
きっと飛ばないね、と付け足して。


――少し丸みのある、きれいな文字だった。
緊張しながら書いていたはずだ。そうでなければあんなに整った並び方はしていないだろうから。
ゴミ箱に捨てられていた便箋には読んでいるこっちが恥ずかしくなるくらい、まっすぐなことばに満ち溢れていた。


これほどひたむきな手紙がどうしてああも無残に捨てられていたのか、
その過程をいくつか考えてみるもののそれは全部私の根拠に乏しい推理でしかなく、真相は闇の中だ。
分かったのはそれがいわゆるスキナヒトに宛てた手紙であることと、その、宛て先。


「飛ばしてみれば?」
なにも知らないやまっちはいつもどおり軽い。
「もしかしたら飛ぶかもしれないじゃないそう言って彼の手が私のつくった紙飛行機に伸びてきたから、奪い取られるよりも先に私は、握りつぶした。


「拾いにいくのがめんどい」
「とってもものぐさと取るべきか飛ばした後で拾いにいくまじめさを評価するべきか判断に悩むね、おねーちゃん」
級友のことばをきれいに無視して代わりに肘鉄をお見舞いしてやると、大げさに呻いて彼は跪いた。
見下ろしながら、思う。こんな男だ、と。


こんな男に、君の気持ちが通じるとは思えない。
もし君自身の手でこれを捨てたのなら、それは賢明な判断だった。
こんな男なんだ。人の気も知らないで、べたべたとひっついてきて、姉だなどとふざけた呼び方をして。
こんな男に気持ちを伝えたところで、……相応の重さを、この男は返すのだろうか。


鳩尾にきまったのかうずくまったままのやまっちを置き去りにして、私は階下にもどるべく扉に手をかける。
手のなかに収まったままだった誰かの恋文はポケットにつっこんだ。
紙飛行機を飛ばさないために並べ立てた言い訳の滑稽さを私は知っていたので、一刻も早くこの男のまえから逃げておきたかった。


「いっそのこと、」
ギイイ、と耳に痛い音を立てたドアに紛れて、呟いてみる。
「おとせるものならどれだけよかったことか」
案の定、背後の男には聞こえていないらしかった。
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2010.07.14 Wed l 未分類 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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