上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- -- l スポンサー広告 l top
「姉ちゃん・・・・・・こんなんで飛ぶと思ってんの?」
修正を繰り返し汚れた紙に引かれた設計図を眺めて少年が呟いた。
「飛ぶわ。私なら飛ばせるの。いい?私は貴方がママのおっぱい吸ってる頃にはもう、操縦桿を握っていたわ。貴方とは経験も知識も違うのよ。いい子だから黙って言うとおりになさい」


それだけ捲くし立ててから、少年の機嫌を損ねないように帽子を被ったカーリーヘアを撫でる。
「信用しているのよ?貴方の腕を。お願いね可愛い設計士さん」
添えられた微笑みに眩しさを覚えて、視線を逸らした。
「っ……か、金は貰ってるからやるよ!けど、飛ばない船になっても返さないからな!?」


「もちろん、返さなくていいわ。だって、貴方なら私の言うことを聞きながら飛ばせるように引いてくれるでしょう?頼んだわよ?それじゃあ、私は休むわ」
髪をかき上げながらおやすみなさい、と立ち去る背中を見つめながらため息をついた。
「言ってることが無茶苦茶だよ……」
と再度、設計図を見返した。


「…… ギリギリ、だよ。ホント……あーもー」
頭を抱えて天井を仰ぐ。彼女は有名人だ。『女だから』『腕がいいから』『美人だから』『空賊だから』総てだ。ただでさえ飛空挺に女が乗るのが稀なのだ。空で生まれ、空で育った彼でさえ、女船長など彼女の存在を知るまで聞いたこともなかった。


当然、彼女を好まない人間も多かった。
賊同士の諍いで原型を留めぬほどボロボロになった彼女の船の修理が、立ち上げたばかりの小さな造船所に舞い込んだのはそれがおおきな理由なのだろう。
名前を売るには充分すぎる仕事だった。ふと、4日前に彼女が依頼に来た日を思い出す。


長い髪は焼け焦げて、衣服は乱れたままで、死にかけの船員を担いでなお、彼女は――彼女の瞳は揺ぎ無く、翼を要求した。
その姿に、心を動かされない飛空挺技師がいただろうか。女であることを蔑むことのできる人間がいただろうか。


その姿と、先ほどの微笑みを思い返して胸が苦しくなった。
「………くそ、見てろよ」
帽子を被りなおしもう一度、設計図へと向かった。


翌朝、設計図を手に彼女の部屋の扉を叩いた彼を力強い抱擁と、キスの嵐が待ち受けていた。
戸惑い、照れる彼をよそに、子供のように目を輝かせながら喜んでいた。その日の空は、果てしなく青かった。


その日から、飛空挺の製造は急ピッチで進められた。
少年は一日々々、完成に近づく船を見ながら自身の仕事への確かな手ごたえを覚えた。
それと同時にもう一つ、別の感情があることに気付きながら、蓋をした。


彼女や、船員達の手伝いもあって一年足らずで飛空挺は完成した。
『こんな構造で飛ぶはずがない』といわれた船を彼女はテスト飛行でいとも容易く飛んでみせた。
引渡しの前夜、船員達が酒をあおる中、少年は彼女に呼ばれ二人で船を見上げていた。
「これで、また飛べるわ」
感慨深げに目を細めた。


その横顔に感情が溢れそうになった。少年は心の中で必死にそれを否定して、話す。
「満足だろ?船長さん。これでうちも一流造船所の仲間入りかなぁ」
帽子を深く被り、乾いたように笑う彼を彼女が抱き寄せる。
「……貴方には、感謝しているわ」
少年の頬に唇を落とし、ありがとう、と添えた。


翌日の出立を、少年は見送らなかった。『連れて行って』と言ってしまいそうだったからだ。
彼女を困らせることはしたくなかった。足の動かない自分では、邪魔なだけだと自身でわかっていた。
車椅子を引きずって、窓から空を見上げた。彼女の、瞳のように、果てしなく青かった。 
スポンサーサイト
2010.07.15 Thu l 未分類 l コメント (0) トラックバック (2) l top

コメント

コメントの投稿












トラックバック

トラックバック URL
http://hinasiba.blog86.fc2.com/tb.php/23-ae45537e
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
管理人の承認後に表示されます
2012.10.27 Sat l
管理人の承認後に表示されます
2012.10.27 Sat l
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。