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「姉ちゃんこんなんで飛ぶと思ってんの」
怒られることを覚悟した少女だったが、予想に反して、男は彼女の頭をぽんと軽く叩いただけだった


すっと差し出されたボール。
少女は顔を上げた。こわもてがやたら近い。わざわざ身を屈めているのだと気づくには、もう少し時間がかかった。


「あ、ありがとうございます」
礼を述べて手を差し出した。
「すみません、当てるつもりはなかったんです」
それと、先刻のお詫びも慌てて。


日がビル街に沈む刻限、この公園にくるのが最近の少女の日課だった。
公園といっても目立った遊具はない。的の描かれたコンクリートの壁があるだけ。
けれど、少女にはそれで十分だった。


「ここ数日、毎日来てるじゃないか」
謝罪には直接応じず、男は険のある眼差しをすいと壁に向けた。
「一人キャッチボールか?」


「ちょっと貸してみろ」
反応に困ったのか、黙ってしまった少女の手から再びボールをつまみあげ、男は何気なくそれを壁へと放った。

パシッ、音がした位置はずいぶんと高かった。
遠く、緩やかに向こう側に吸い込まれる軌跡を想像して、少女はため息をついた。


「もっと体全体を使って投げるんだな。姉ちゃんのはあれだ、上半身だけで投げてる。そんなんじゃ飛ばねぇ」


それでもなお続く沈黙に、耐えきれないというかのようにわしわしと男は頭をかいた。
「信じろい。これでも昔は、エースピッチャーだったんだぜ」


真っ直ぐに育った若木のような少女と、お世辞にも堅気には見えない男。
端から見たら、やれ恐喝かかどわかしかと思われるだろう。けれどねじれた唇から出てきたのは、エースピッチャーという華やかな、どこかしみじみとした響きで。


その落差がおかしくて、少女は笑いだしてしまった。まるで出来すぎたお話のよう。
この際、それが嘘か本当かは別問題だった。


「毎日見てくれてたなら、うまく投げれるよう、これからコーチしてくれませんか」
そんな展開に甘えて、少女は軽口をたたいてみた。
男はそれはもう情けないほど崩れた顔をしたが、すぐに背中を向けると二歩三歩と足を動かした。


「あの…」
「バカ言うな」
身をすくませるようなドスのきいた声が返ってきた。


「これからとか、軽く未来を口にすんな。ないかもしれねぇ明日明後日を考える暇があるなら、今をせいぜい生きるんだな」


はき捨てた男は、勢いあまったのかついでのように一言。
でないと、俺みたいになっちまうんだよ」


ぽつんと呟いたそれが、複雑な色をのせていたことに、果たして少女は気づいたかどうか。


立ちすくむ少女の視界の先、ビルの影に白いスーツが吸い込まれていった。
きれいな放物線を描いた白球とはかけ離れた、ひどくいびつな姿だった。
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2010.07.17 Sat l 未分類 l コメント (5) トラックバック (2) l top

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